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2話-3 花嫁候補のお勤め。

Penulis: 空野瑠理子
last update Terakhir Diperbarui: 2026-01-05 20:00:42

* * *

――夜。リリシアは浴室でひとり、床掃除をしていた。

長い木の棒の先に上質な布を束ねたもので大理石の床をきゅっきゅっと1枚ずつ丁寧に磨き上げていく。

だが、浴室の窓から入る微かな月の光に時折ふらつき、倒れないよう必死に磨き棒を支えにする。

静寂が落ち、リリシアは息を吐いた。

「はあ……」

月の光の方向からして、もうすぐ、ルファルのお迎えの時間、か。

ソフィラは今頃、玄関の外でルファルを待っていることだろう。

このような姿を見られなくて良かった。

だが、花嫁候補ならば本来、朝お見送りをしたように夜もルファルをお迎えしなければならない。

そんなことは百も承知だけれど、朝の調子からしてルファルの疑いの目は確実に濃くなっている。

だから今は疑いの目を少しでも減らさねば。

リリシアは頷き、床掃除の手を再び動かす。

そして、最後の1枚を磨き終えた時だった。

「入るぞ」

ルファルの声が廊下から響き、浴室の扉が静かに開く。

ルファルはまだ着替えていない。玄関から直接ここまで来たようだ。

「ル、ルファル様、おかえりなさいませ」

リリシアは磨き棒を持ちながら深々と会釈する。

「なぜ、迎えに来なかった?」

「あ、大変申し訳ありません……迎えの時間も忘れ、床掃除に集中しておりました……」

「ほう」

ルファルから冷たい視線を送られる。

自分よりも床掃除を優先させたことに腹を立てているようだ。

花嫁候補が迎えに行かないなど前代未聞のこと。腹を立てるのも無理はない。

「それから、浴槽には触れていないだろうな?」

「は、はい……」

「なら良い。浴槽は月の魔術でいつも綺麗にしている。少しでも触られたら堪らない」

ルファルやユエリアが持つ月の魔術……今のわたしにとっては呪いの言葉にすら聞こえる。

「そう、なのですね。これからも浴槽には決して触れないよう、気をつけます。では床掃除が終わりましたので、今宵はこれで失礼いたします」

「待て」

ルファルの低い呼び声に、歩き出そうとした足をぴたりと止める。

一体なんなのだろう。早く部屋に戻って寝たいのに。

「な、なんでしょうか……?」

「夕食は食べないのか?」

「あ、えっと……昼に食べ過ぎてしまったので……」

――本当は嘘だ。昼は一般的な量しか食べていない。

けれど、家で暮らしていた時は食事を与えられないのは日常茶飯事だった。

それに比べれば、夜を抜いてもお腹は満たされているのでなんてことはない。

「そうだとしても、花嫁候補ならば付き添うのが普通だが? どこか体調でも悪いのか?」

リリシアの瞳が揺れる。

まずい。逃げ切らなくては。

「い、いえ……。それにルファル様と夕食をお取りするのが決まりなことは重々承知しております。ですが、お許し頂きたく……」

ルファルは息を吐く。

「今宵だけだ。明日は付き添え」

「は、はい……大変申し訳ありません!」

リリシアは謝罪し、一歩踏み出そうとする。

その時、足元がふらつき、前にぐらりと身体が傾く。

あ…………。

倒れると思った直後、ルファルに身体を抱き止められる。

それはまるで、時が止まったかのようだった。

――――ルファル様の胸に、顔が。

リリシアはハッと我に返り、バッと離れ、すぐに謝罪の言葉を伝えようとする。

だが、気が動転して上手く声が出ず、深々と会釈をし、浴室から退室した。

その後、磨き棒を浴室に隣接する窓がなく狭い用具保管室に片付け、部屋まで気丈に歩いていき、やがて、部屋に入り扉を閉める。

その途端、気が抜け、ふらつきながらベッドまで行き、必死な想いで天蓋のカーテンを閉め、倒れ込む。

だが、予想通り、大きな窓を隠す薄手のカーテンから月の光が

天蓋のカーテンを突き抜けて入ってくる。

「はあ、はあ……」

リリシアは荒い息を吐きながら、ユエリアの髪飾りに触れ、必死に耐える。

夜よ、早く超えて。

そんな想いを強く抱いた時、浴室でのあの出来事がふと脳裏を過ぎる。

苦しくて辛い気持ちが吹き飛ぶ程の恥ずかしさが一気に込み上げると同時に、不思議と心が暖かくなっていく。

ルファルは抱き止めている時、何も言わなかった。

それなのに、まるで、ルファルに大丈夫だと、言われているかのようだった。

リリシアはいつしか安堵に包まれ、深い微睡の中へと落ちていった。

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